はじめに
今回は業務フローを階層的に整理する方法を次のステップで説明していきます。
- ステップ1:階層的な整理の基礎となる業務フローの「粗さ/細かさ」について考える
- ステップ2:BPMNで階層的に記述する方法を学ぶ
- ステップ3:階層的な整理をするために重要な視点「ハンドオフ」とは何かを知る
- ステップ4:階層的に整理された業務フローの利用イメージを持つ
業務フローの「粗さ/細かさ」について考える
階層的に整理するとは、粗い業務フローから描きはじめて段階的に細かい業務フローを描いていく方法です。では「粗い」、「細かい」とは具体的にどのようなことなのか、そのイメージから掴んでいきます。わかりやすいように両極端な業務フローの利用目的で確認していきます。
最初の利用目的では、数名の部門長が集まるワーキンググループで業務改善を検討するために業務フローを使います。そこでは業務フローを見ながら「既出Q&Aは素早く回答できるように技術に廻さずサポート窓口で対応させよう」というような会話をします。
もう一つの利用目的では、ある作業の担当者がRPA導入担当者に自動化を図りたい作業の手順を説明するために業務フローを使います。そこでは業務フローを使って「最初に受注システムを起動、次にログイン情報を入力、さらにメニュー画面で・・・」と説明することになります。
ここで利用目的が異なる2つの業務フローを比較してみます。次の図を確認してください。
業務改善ワーキンググループで使われる業務フローは、関わる組織や役割の幅が「広い」、業務を開始してから終了するまでの期間が「長い」、作業の塊が「大きい」といった図面になります。この図面が粗い業務フローです。
一方、担当者ミーティングで使われる業務フローは、それらが「狭い」、「短い」、「小さい」といった図面になります。この図面が細かい業務フローです。
BPMNで記述する方法を学ぶ
役職や立場が異なると最適な業務フローの「粗さ/細かさ」も異なることをみてきました。そこで、それぞれの役職や立場の人に合わせて階層的な整理をすることを考えていきます。まずはBPMNを使って階層的に記述する方法をみていきます。
次の図を確認してください。「+」記号が付いたアクティビティを使って業務フローを階層的に描いています。「+」記号は、それをマウスでクリックすると中身が表示されて詳細が確認できることをイメージさせるものです。
図で確認できる通り、アクティビティには2つの種類があります。「+」記号が付いたアクティビティを「サブプロセス」と呼び、付いていないアクティビティを「タスク」と呼びます。
「ハンドオフ」とは何かを知る
BPM(Business Process Management)に関する欧米の文献を読んでいると 「ハンドオフ」という言葉を目にします。アメフトを語源とする言葉で、クォーターバックが味方にボールを手渡しする動作に重ね合わせて他の担当者に作業を引き継ぐ行為を表します。BPMという業務管理手法においてハンドオフという言葉が使われる主な理由は次の3つです。
- 他の人へ作業を引き継ぐ時は遅れや漏れが発生しやすいので、ハンドオフは重要な業務改善ポイントである
- ハンドオフで区切って捉えると、組織の役割分担を見直したり、最適な人員配置を考える単位となる
- BPMS(Business Process Management System)はハンドオフを自動化するものなのでハンドオフの視点で業務を捉える必要がある
業務管理においてハンドオフは重要な視点なので、ハンドオフの視点で分析がしやすいという要件はとても大切です。まずは分析しやすい業務フローとはどのようなものかを下図で確認してください。「ハンドオフが発生するまでを1つの作業の塊として捉える」ということが大切なポイントです。
次に2つの階層化のパターンを紹介します。それらを見ながらハンドオフの視点で分析がしやすい階層化の方法を確認してください。
1つ目のパターンは、ある部門からから他の部門へのハンドオフを可視化する部門ハンドオフ、ある担当者から他の担当者へのハンドオフを可視化する担当者ハンドオフ、各担当者の作業の流れを可視化する作業手順という3つの階層で整理する例です。
なお、図では、プールを省略しても良いというBPMN仕様のもとプールを省略しています。部門ハンドオフではプールを描かずに「営業」、「技術」、「購買」という3つのレーンを記述しています。また、レーンをレーンで区切ることができるというBPMNの描き方も使っています。担当者ハンドオフにおいて「購買」レーンをさらに「担当」と「上長」で区切っています。
2つ目のパターンは部門ハンドオフと担当者ハンドオフを1つの階層で可視化する部門&担当者ハンドオフ、作業手順の2つの階層で整理する例です。
階層的な業務フローの利用イメージを持つ
2つの階層化のパターンを見てきましたが、それらを含めてどのような階層化が良いか。それを決めるためには、まずは業務フローをどのように利用するかを決める必要があります。
たとえば次のシナリオで業務フローを利用すると決めたとします。
- 手順1:部門長が集まる業務改善ワーキンググループで業務改善方針を決める
- 手順2:部門長は業務改善方針を自部門に持ち帰り、 その方針に沿った自部門の業務の進め方をリーダークラスの社員に検討させる
- 手順3:リーダークラスの社員が業務の進め方を検討する中で、担当者の作業手順まで深堀りして改善検討をすべき箇所を見つけた場合は、担当クラスの社員に作業の改善方法を検討させる
シナリオが決まれば、誰がどのように業務フローを利用するかも見えてきます。それに合わせて階層的な整理の方法も決めることができます。
- 手順1:業務改善ワーキンググループでは部門ハンドオフを主に分析する。必要に応じて担当者ハンドオフも確認する
- 手順2:リーダークラスの社員は担当者ハンドオフを主に分析する。必要に応じて作業手順も確認する
- 手順3:担当クラスの社員は自分の作業手順だけを見て検討する
まとめ
筆者は様々な企業で階層的な整理のためのルール作りをしてきました。その経験から、最適な階層化方法は業務フローの利用方法で決まると考えています。誰が何を業務フローで分析するのか、誰が誰に業務フローを使って説明するのか、それらを考えて階層化ルールを決めるべきだと思います。分析者にとって見やすい、説明を聞く人にとってわかりやすい、それらが一番大切な業務フローの要件です。